甲状腺は喉仏の下にある、蝶のような形をした臓器です。
新陳代謝を良くしたり成長に欠かせない甲状腺ホルモンを分泌しています。
通常は体の外側からはその形を確認できませんが、甲状腺疾患になると腫れたりしこりができるので手で触って分かるようになり、さまざまな症状も表れてきます。
倦怠感や無気力など原因不明の体調不良には甲状腺の病気が原因になっている可能性がありますが、症状が複雑で多岐に渡っていることから他の疾患に間違われることも少なからずあります。
甲状腺疾患は女性に多く(患者の85~90%)、妊娠出産にも影響を及ぼすので、特に女性は注意したい疾患です。

甲状腺疾患は3タイプ
甲状腺疾患は大きく分けて3タイプあります。
亢進症
甲状腺ホルモンの分泌が過剰になり、全身の代謝が高くなりすぎている状態です。
代表的なものにバセドウ病があります。
常に運動しているような状態なので、食欲が増加するのにエネルギー消費がそれを上回ることから食べても体重が減るようになったり、動悸、疲れやすいなどの症状もあります。
眼球が飛び出したように見えるのも、よく知られた症状です。
低下症
甲状腺ホルモンの分泌量が不足し、全身機能が低下している状態です。
代表的なものに橋本病があります。
エネルギーが不足した状態なので、眠気や物忘れ、無気力、抜け毛の増加などの症状が表れます。
腫瘍
甲状腺腫瘍の8~9割は、積極的な治療の必要がない良性腫瘍がほとんどです。
初期の段階では自覚症状はほとんどありませんが、腫瘍が大きくなってくると腫れや飲み込む時に違和感を覚えることがあります。
悪性腫瘍の場合は手術が必要になります。
甲状腺疾患の初期症状
特有の症状はあまりありませんが、次に挙げるような症状を感じることがあれば、まずはかかりつけの医師に相談しましょう。
甲状腺機能に異常があると疑われる場合は、紹介状をもらって甲状腺に詳しい医師の診察を受けるのが良いでしょう。
検査方法は、血液検査やエコー検査などがあります。

亢進症の初期症状
- 暑がり
- 食べても痩せる
- 異常に汗をかく
- お腹が緩くなる
- 便の回数が増える
- 動悸がする
- 脈が速い
- 手足が震える
- イライラ
- 不眠
- 眼球が出てくる
低下症の初期症状
- 寒がり
- 太ってきた
- 脈拍数が少ない
- 浮腫む(顔、全身)
- 皮膚が乾燥する
- 声が枯れる
- 気力が起きない
- 眠気が強い
- 便秘
亢進症と低下症に共通する初期症状
- 倦怠感
- 筋力低下
- 疲れやすい
- 息切れ
- 抜け毛が増える
- 甲状腺が腫れる
どんな治療をするの?
薬物療法が中心
亢進症であるバセドウ病は甲状腺機能を抑える薬物療法が治療の中心になります。
治療を開始して2~3週間たつと動悸や手足の震えなどの症状は治まります。
低下症である橋本病は不足している甲状腺ホルモンを補填する治療になります。
どちらの疾患も治療開始後しばらくすると症状は落ち着いてきますが、甲状腺の機能そのものはすぐに回復してこないので、再発防止のために1~2年薬物療法を続けます。
バセドウ病の場合は通常の薬物療法で効果が出ない場合、放射性ヨード(アイソトープ)治療や手術が選ばれる場合もあります。
悪性腫瘍の場合は手術
良性腫瘍の場合は積極的な治療の必要はありませんが、1~2年に一度は定期的に検査を受けた方が良いでしょう。
悪性腫瘍の場合は、抗がん剤が効きにくいので、手術で甲状腺を部分的に切除するか全摘出になります。
亢進症は安静第一
バセドウ病などの亢進症は常に運動をしているのと同じ状態になるので、心臓にかかる負担を軽くするためにも安静にすることが第一です。症状が落ち着くまでは、軽い運動であっても控え、入浴も長時間にならないように注意します。
妊娠と出産
きちんと治療を受けて甲状腺機能が正常に働いていれば、妊娠出産は可能です。
治療中であっても妊娠出産は可能です。
もし妊娠経過中に異常が見つかったとしても、治療すれば問題はありません。
治療が必要な段階には至っていない潜在性甲状腺機能低下症の方は、妊娠を希望する時点で甲状腺ホルモンを補充すると良いと言われています。
甲状腺機能に異常があると、流産や早産のリスク、不妊の可能性が高まりますが、ホルモンを補充することで妊娠や妊娠の継続もしやすくなります。また妊娠初期は胎児の成長に甲状腺ホルモンがとても重要になります。
甲状腺機能が低下したままで妊娠経過が進むと胎児の脳に影響が出ることもあります。
亢進症の場合は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると血糖値を上げる働きをしてしまうため、妊娠糖尿病を発症することがあり、妊娠の継続を難しくさせてしまうことがあります。
そのため必要に応じて、妊娠前や妊娠中も抗甲状腺薬などを服用します。

生活上の注意点
食事に特に制限は無く、1日3食規則正しくバランスの取れた食事をすることが大切です。
橋本病などの甲状腺機能低下症の場合は、昆布やわかめなどの海藻類にヨードが多く含まれているので食べ過ぎに注意します。
ヨードを含む食品を摂り過ぎると甲状腺の機能をさらに低下させてしまいます。
亢進症の場合は、体への負担を無くすためにアルコールは控えましょう。
また甲状腺疾患はストレスが大きく影響します。
生活リズムを整えること、ストレスを溜めないようにすることが大切です。
亢進症では運動を禁止されることもありますが、好きなことやリラックスできることを見つけて上手に気分転換しましょう。
最後に
甲状腺疾患はきちんと治療を受けてコントロールできれば怖いものではありません。
悲観的にならず上手に付き合っていくことも大切です。
体調で気になることがあれば、早期発見のためにも医師に相談しましょう。
